第1期日韓こころの交流講座
      家族〜その新しい波〜

       2003年12月6日


   子供への虐待 国際比較


        金 聖二

子供の家

 私がお伝えする内容は、児童虐待の国際比較です。
 まず、韓国の子どもの家(保育園)で、わずか1ヶ月前に起こったことですが、そこで起こった児童虐待について、尹基理事長に紹介していただきます。その後、私が日本と韓国、そしてニュージランドの対策についてお話したいと思います。


<社会福祉法人こころの家族 理事長 尹基>

 ちょうど1ヶ月前、韓国で児童虐待の問題が大きく新聞に載りました。銀行員の夫婦が忙しくて子育てが無理だと、月30万ウォンで無認可の子どもの家に10歳の子どもを預けました。新聞記事によりますと、子どもの家では、学校の宿題をしないと、園長が台所で食器を洗うスポンジに洗剤をつけて口に当てていじめたり、罰で昼を抜きなさいと指示したのに食べると、1週間くらい食事をさせなかったり、ムチで100回くらいたたいたりしました。また、ラーメンを食べ残すと、残したラーメンや落とした数だけの罰を与えたり、漢字を書きなさいといったのに書かなかったら犬のように歩かせたりするなど、ひどい児童の虐待がありました。たまたま子どもの様子がおかしいことに学校の先生が気づき、警察に訴えたのでした。それが、「今、子どもの家でこんなことがあるとは?」と、大きく新聞に報じられたのです。


 この新聞記事は、テレビにも出ていました。体中にあざができているのがテレビの画面で見られました。それにも拘わらず、子どもの家に預けていた一部の親たちは、この園長を助けようと陳述書を出しました。園長も自分は教育上厳しくはしたが、大きな間違いはしなかったといっていました。この事件も小学校の先生が発見しなかったならそのまま埋もれてしまう事件でした。

 このように今、父母の無知のため、保育施設に対する盲信の中で多くの児童虐待が起きています。多分、これが韓国の現状ではないかと思います。日本は韓国とはもちろん違うでしょう。しかし、大きな違いはないと思います。

日韓の児童虐待

 韓国や日本の発生件数を申しますと、多少の誤謬があるかも知りませんが、今も毎年7千人から1万人以上の子どもたちが児童虐待を受けていると見られます。昨年も1年間(2002〜2003年)で、韓国では約4千件の児童虐待事件が起こりました。日本と韓国の人口比例から見れば、ほとんど良く似た数字になっております。
 
 統計的に共通な虐待事例として、身体的虐待は日本は53%で、韓国は30%。性的虐待は、日本は5.7%で、韓国も良く似た5%となっております。保護の怠慢、遺棄は日本が30%、韓国は40%程度です。この部分は最近の韓国の経済状態が厳しいために多くの児童虐待や児童を捨てる遺棄が発生しているものと考えられます。
 
 前出の新聞事例で見たように、父母が銀行員でありながら、保育所に預けていたことも、多分児童遺棄の類型に属するものと思われます。韓国は6・25(韓国動乱)直後は、孤児院に預けられる子どももたくさんいましたが、今や経済成長の悪化で、父母がいても孤児院に預ける遺棄型保護施設に様変わりしてきています。心理的虐待は、日本は6.1%、韓国は25%です。韓国での言語暴力は日本より激しいと思われます。
 
 児童の虐待を受ける年齢については、3歳未満が17%、学齢前が26%、小学校が36%となっております。学齢前に日本の子どもたちが虐待を受ける場合が、約45%となります。ところが、韓国は小学校の虐待が多く、約50%程度と報告されています。これは最近の韓国の経済事情と関連していると思います。主な虐待対象を見れば、母親からが55.1%、父親の場合が27.6%、この2つを合わせれば約82%となります。韓国の統計では、約85%は父母から発生しており、日本とよく似ていることが分かります。


児童相談

 児童に関連した主な相談所は、韓国・日本ともに「児童相談所」、「児童虐待予防センター」で、どちらも国家の責任が強調されています。このような点から、少しの差はあるものの、韓国と日本が実態面でもよく似た様相を帯びていると判断できます。

 私が訪ねた日本の児童虐待対策施設の中で、神奈川県にある「児童人権相談室事業」がとても印象的でした。神奈川県では、日本社会福祉大学の高橋先生が提案した相談類型に沿っています。ここで面白くて特異なことは、児童人権審査委員会があり、地域の児童相談施設が持ってきた問題を最終審査する役割をしていることです。その構成は、弁護士が3人、医師が2人、児童福祉専門家が3人、計8人が集まり、地方の相談所に入ってくる児童虐待問題を審議し、子どもたちを父母から分離して施設に入れるべきか、でなければ父母に何らかの措置を取るべきかなどを決定しておりました。
 
 児童人権委員会では、いろいろな児童の包括的な問題を審議する、たいへん素晴らしい役割をしておりました。私が見るところ、日本は相当に構造化された児童保護システムを持っていると考えられます。地域に児童保護施設があり、その上に児童人権審議会のような諮問機関があります。このように日本は行政的で、構造的な独創性をもって、児童虐待問題に対処しております。

韓国の対策

韓国の実態とその対策を見てみます。前述の児童虐待事件で見たように先生の申告で児童虐待問題が発見されました。韓国では、医療人、教師、施設従事者、関連公務員には申告の義務があります。しかし、このような申告義務者よりは非申告義務者が申告する場合が多いようです。

 児童虐待の発生場所は家庭が最も多く、親戚や教育機関がその次でした。被害児童年齢を見れば、低年齢層が多く、1歳から2歳など、11歳未満を合わせれば70%以上です。小学校以下の学生保護が重要視されているわけです。
 
 被害児童の措置結果を見れば、家庭で最も多い問題が起こっているにも拘わらず、元家庭での保護が多いという皮肉な問題があります。48.2%が元家族保護です。

身上公開

 虐待行為者の措置結果を見れば、相談が64.7%で、告訴、告発など法的措置はあまり取られていません。韓国の児童対策としては、窓口の電話番号「1391」を知らしめることと申告義務者の教育を強化することから始まっています。韓国児童虐待保護法律を見れば、この法は児童福祉法の下にあり、2000年に作られたものですが、23条は緊急電話設置、24条は児童保護機関の設置で、申告を強調していることが分かります。
 
 韓国の児童虐待問題の中でも重要な問題は、性虐待です。最近の性問題は日本でも大きな社会問題となっていると思います。日本で良く知られている「援助交際」という言葉があります。韓国も最近、援助交際が大きな社会的問題となっております。青少年の性が売買の対象となることを防ぐために、青少年性保護に関する法律が作られました。この法では青少年を対象として性を買う行為とか、その他、性犯罪行為に対して、身上を公開することになっています。

 身上公開対象者は、一般的に4種類に分類されます。はじめに援助交際者、2番目に性醜行者(セクハラ)、3番目に性暴力犯、最後に業者たちです。青少年保護委員長の時、最初にこの法が施行されましたが、法の施行を前に賛否両論が噴出しました。

 一般青少年保護団体では、積極的に身上公開をしなければならないと賛成しました。しかし、弁護士などの人権団体では、人権侵害があると主張しました。そこで私たちは、青少年性犯罪に対する合理的な法の手続きを作る努力をしました。はじめに国民啓蒙用文書を作り発表しました。19歳未満の青少年を対象にした犯罪者をすべて公開するのではなく、その中でも悪質な人だけを公開するようにしました。

審査基準

 身上公開審査基準を見れば、法務部から犯罪者名簿をもらった後、青少年保護委員会で審査基準により審査しました。その基準は、犯罪類型として、集団性暴行は一般的な軽い犯罪者に分類し、次に性犯罪者の年齢と被害青少年の年齢を比較してみました。同じ援助交際といっても、25歳の男が15歳の女の子と援助交際するよりは、40歳の人が10歳の人に対する性犯罪をより重くみました。

 その次に犯罪の動機は偶然なのか、計画的なのかも見ました。援助交際が一回目の人は、悪質でない限り除外し、2回目以上の者を公開対象者として分離しました。その他、10点の範囲で加減し、必要と認められる人は公開しました。審査公開基準の最高点は、最も悪い場合が100で、60点以上の人を公開しました。
 
 この審査基準で、1次審査をした後、1次対象者個人に通知し、あなたは公開対象者ですので、それなりの事情があれば陳述書を書くように伝えました。意見書を見ると、「一度だけ見逃してください。許してください」が大部分でした。

 意見書を見ながら2次審査をして、公開対象者を決定し、対象者にもう一度通知しました。あなたは公開対象者ですので、「異議があれば裁判に訴えてください」と機会を与えました。そして裁判とか異議提起をしなかった人は8月31日に初めて公開しました。

 身上公開では、その人のすべての情報を公開するものではありません。名前と職業(会社名でなく、職種まで)、住所も市、村までで、詳しい住所は明らかにしませんでした。次に性暴行なのか、セクハラなのかという事実を簡単に要約した要約文を添付しました。

 身上公開は官報に載せ、青少年保護委員会のインターネットに6ヶ月間、情報中央庁舎に1ヶ月間、開示されます。これまで、4回、身上公開しました。審査対象は3,500人でしたが、公開人員数は1,900人でした。

憲法判断

 今までの強姦犯を見れば、1次から82人が審査対象になりましたが、その中から65人を公開しました。強制セクハラは93人中61人、青少年性援助交際は100人中27人、斡旋の場合はすべて公開しました。援助交際者を皆公開するわけではありません。しかしこのような身上公開制度に対して、その人格に関する問題が深刻な社会論議を引き起こしました。憲法裁判所は2003年6月26日、身上公開基準は違憲でなく合法であると判決を下しました。この過程は、将来日本で政策を作るとき重要になるかと思いますので、詳しく説明します。

 これは、2000年7月1日に援助交際者が身上公開は不当だと裁判を起こした事件です。この人は援助交際が事実上、一度だけの人でした。 先ほど10点の範囲で加減するといいましたが、そのルールに引っかかって公開されました。この人の場合は、公務員でありながら、女の子を6万ウォン(6千円)で買い、性関係を結びました。

 また私たちがこの人を公開しなければならないと決定した理由は、37歳と13歳の年齢差も一つの要因でした。この人は裁判で、性関係を結んだ時、女の子は19歳だったといったので、13歳とは知らなかったといいました。しかしいくらなんでも19歳と13歳の区別できないかという疑問がありました。更に悪かったことは、当初6万ウォンで、2回の性関係を持つ約束をし、1度目の1週間後に2回目の性関係を持とうとしたときに捕まったのでした。公務員で、年齢差があり2回も持とうとした状況を考えて、青少年性保護犯罪の関連法により、罰金500万ウォンを払うことになりました。

 その後、身上公開することを通知すると、本人は既に罰金500万ウォンを払ったのに、なぜ公開するのか、これは2重処罰じゃないかと抗議してきました。しかし、わが青少年保護委員会では、これは新しい性犯罪形態で、予防手段として必要だと主張しました。また、この人は弁護士を通じて身上公開は一種の刑罰なのに、なぜ行政府の青少年保護委員会でするのかと、その是非を問いました。しかし青少年保護委員会では、これは行政措置だと発表しました。

 更に主張したのは、余りにも人格を侵害しているのではないか、刑事処罰を強化して罰金を上げればいいのに、どうして身上公開をしようとするのかでした。ここで、児童の権利について考えなければなりません。

 大人が500万ウォンの罰金を払うのと、女の子が援助交際をした後に受ける心理的被害をどう判断するのか、刑事処罰だけでは限界があるため、身上公開をして社会的な啓蒙をしていかなければならないと主張しました。

 すると、平等原則に反すると主張しました。「援助交際をした人は身上公開をし、青少年を殺害した殺人犯罪者は公開しないのか。犯罪の重さからいえば、殺人がより重いのではないか」と。しかし、私たちはこのような新しい犯罪を予防しなければならないという点から援助交際者の身上を公開しなければならないと主張しました。

 また正確な住所も明らかにしないで、社会には誰かも分からないのに、何の社会的予防効果があるのか、却って曖昧模糊とした公開では、事件を興味本位で社会に伝えるようなものではないかと、実効性の疑問も提起しました。しかし、わが国の現状を見るとき、具体的な情報が明らかにされるときには個人の生存に致命打となると考えました。

このようないろいろな主張と賛否両論があった後、2000年7月1日に起こされたこの事件の判決が2003年に出ました。憲法裁判所では審判官が皆で9人でした。その中で5人は違憲と判決しました。そして4人は青少年保護委員会が公開することが正しいと支持しました。この数字を見れば、違憲と判決が出なければならないのですが、韓国の憲法裁判所の判決は3分の2以上、即ち審判官6人が支持しないと違憲判決が出ないのです。従って法論理上、少しの違憲素地はあるが、現実的には必要であるということを認めてもらったようなものです。

 以上見ましたように、一部では、日本は構造化された保護対策をとっており、韓国は教育的な制度を重要視していると見ることができます。

ニュージランドの対策

 ここで、アジアとはまた違う一つの国の対策を話します。ニュージランドの対策、PUAWITHAI-MULTI AGENCY-ONE SERVICEについてです。

 私は1ヶ月前、この機関に直接行って見ました。これは2002年に作られましたが、これを作るために地域社会のいろいろな問題を調査したといいます。この調査を基礎にPUAWITHAI-MULTI AGENCY-ONE SERVICEが作られました。ここでは5つのチームでセンターが運営されていました。児童事前調査チーム、健康医療チーム、相談サービス、警察チーム、保護観察チームでした。というわけで、相談専門チーム、警察、医師、いろいろな地域社会のボランティアなどが一緒に仕事し、ワンストップサービスで活動しておりました。

 また、共同事例管理を通して死角地帯を無くす効果を出していました。次に効率性を高め、重複サービスを無くしているのが分かりました。直接行ってみると、原住民と現在の住民の文化的背景を考慮して、待機室を別々に作ってありました。

 児童を初期に相談するときもビデオを撮り、秘密を保証しながら保管しておりました。これは非常に重要なことでした。なぜならば、児童セクハラを検挙しようとするとき、児童を派出所、警察署などに連れて行って、何回も被害の状況を話させることは殺人行為に等しいからです。ここでは警察が保管しているビデオを通して、一回だけ陳述すれば良いという大変素晴らしいシステムを持っておりました。
 
 またついでにいうならば、性犯罪者をはじめ、虐待者を治療するセンターが近所にありました。韓国には身上公開はしても、身上公開対象者を治療するセンターはありません。ここでは治療者の権益のためのセンターを持っておりました。


終りに

 結論的には、次のとおり主張したいと思います。
韓国で実施している身上公開制度のような国民教育用プログラムが開発されなければならないと思います。そして日本で実施している構造的なシステムも非常に良いと思います。またニュージランドで実施しているワンストップサービスも必要だと思います。このようなことが統合的に運営されるとき、児童虐待問題が相当に減少するだろうと考えます。


プロフィール

金 聖二 (キム ソンイ)

韓国 梨花女子大学 社会福祉学科 教授

経歴
韓国社会福祉学会 会長
韓国青少年学会 会長
韓国薬物相談家協会 会長
国務総理 青少年保護委員会 委員長


現職
韓国 梨花女子大学 社会福祉学科 教授 
韓国社会福祉教育協議会 会長
韓国 社会福祉共同対策委員会 委員長
韓国 ヘビタット「愛の家作り運動」企画理事