第1期日韓こころの交流講座
家族〜その新しい波〜

2004年1月17日 




老後の日韓比較


朴 在侃

家族規範の変化

 高齢者と家族の問題ですが、日本と中国と韓国の3国は、儒教文化の国であり、伝統的には敬老思想があります。ヨーロッパはキリスト教文化で、キリスト文化圏の家族と高齢者の問題と、儒教圏の高齢者と子供たちの価値観は違います。世界中で親孝行、敬老思想が最も強調されるのは儒教文化の国です。皆様もご存知のとおり、伝統的な儒教文化圏の老人と子供の関係は、家族規範というものがあり、その家族規範には家父長制的な家族規範があります。親と息子、また息子から孫に続いて家族文化が継承されます。それが家父長的家族制度です。

 家父長的家族制度が尊重される国では、女性の発言権が認められません。男中心、血縁中心、それが家父長的家族制度で、韓国も1960年代までは家父長的家族制度が尊重されてきました。また家父長的家族規範では、多くの子供がいてもその中の長男だけが父母を扶養する義務があります。次男や娘には父母の扶養の義務がなく、長男だけが父母を扶養する責任を持つ、それが韓国の儒教的家族規範だったのです。

 しかし今、社会規範や家族規範が変わってきて、今の韓国の家族の一般的な流れは夫婦中心です。老父母と若夫婦と幼い子供たちからなる3世代家族で、一緒に一つ屋根の下に住んでいても、家父長的家族制度では、その中の高齢者が財産の所有権を握っていますし、家事決定権、金銭管理権、すべてが高齢者の責任でした。

 しかし、今の夫婦中心の家族制度では、3世代が1つの家族として住んでいても、家事決定権や財産管理権は若夫婦の権限であり、高齢者は若夫婦の従属的な立場になっています。韓国では家父長的な家族規範が、今、夫婦中心的な家族制度に完全に移ってしまったといえます。日本もそうだと思います。核家族化

 韓国の場合は核家族化が日本よりも進んでいます。私は、1975年に全国の高齢者たちを対象に生活実態調査をしたことがあります。その調査では、3世代同居世帯が78.2%でした。しかし1981年には69.1%、1990年には44.0%、1996年には28.8%になってきました。高齢者の中で、未婚の子供と一緒に住んでいる世帯の比率は1975年の6.8%から1996年の6.3%とあまり変わりません。
問題なのは老齢者夫婦、高齢者単独で生活しているという核家族化現象です。1975年には7%だったものが1990年には23.8%、1996年には53.1%と過半数が既に子供と同居しなくなっています。

 これは1996年の実態ですが、2000年現在では60%の高齢者が子供と同居しなくなっています。特に、農村地帯では70%から75%、ある少数の地域では80%以上の高齢者が同居していないのが現状です。

 私は、高齢者の生活状態と老人福祉政策を見るためにヨーロッパに20回行きました。アメリカや中国、東南アジア、日本にもたびたび行っています。

 欧米諸国の場合には、今から100年位前までは、高齢者たちは家族と同居していました。農耕社会であった1世紀前は、高齢者の大部分は子供と同居していたのです。しかし、農耕社会から産業化社会に転換した時期が東洋より早かったため、1920年、今から約80年前には13〜15%くらいの高齢者が家族と同居しなくなりました。第2次大戦の終戦の時期、1940年代には、国によって少しずつ違いますが、大体40〜42%の高齢者が家族と同居しなくなりましたが、それでも60%近くは家族と同居していました。1980年代になると80〜85%、1990年代から2000年になると、大体95%近くが家族と同居しなくなりました。

 韓国の場合は、2010年〜2015年には全体の高齢者の75%近くが家族と同居しなくなるというのが、韓国で老人問題を研究する学者たちの共通の見解です。韓国がヨーロッパのように90%以上の高齢者が、家族と同居しなくなるのは大体2020年代とみられていて、儒教的家族規範を持っていた社会でも産業化社会に進むにつれ、家族解体現象はヨーロッパのように起こるといいます。韓国では、今から20年位前までは多くの学者たちは「韓国は儒教的な親孝行の価値観と家族規範があるから、ヨーロッパのような家族解体現象は起こるわけがない」と主張したのです。しかし今は、そのような見解は完全に崩れてしまいました。韓国では今、日本よりも急激に核家族傾向が進んでいるのではないかと思っています。日本では、高齢者単独、高齢者夫婦だけの世帯が40〜45%くらいだと思います。韓国は今60%です。家族解体現象は日本よりももっと激しいということなのです。その原因が何であるか、同じ儒教文化国なのに、まだ農耕社会から産業化社会に移った時期は日本の方が早かったにもかかわらず、また家族解体現象は産業化社会の進展と共に進むというのが原則なのに、どうして日本よりも韓国の家族解体現象が早く進むのか、その原因に対する研究が韓国の学者の間で進んでいます。

 「第2次大戦が終わり、日本・韓国・台湾・フィリピンは、アメリカ占領下に置かれていました。その内、韓国とフィリピンはアメリカ占領下でキリスト教が発達しました。キリスト教の信者の数が急激に増えたのです。そのため韓国は仏教信者が全人口の約30%なのに対し、キリスト教信者の人口は40%以上です。一方、日本はアメリカが占領した時期にもキリスト教はあまり入っていません。儒教的伝統、仏教的伝統の家族規範をそのまま存続しました。そのため家族解体現象が韓国よりも遅いのではないか」とある学者は主張していますが、それは今からもっと研究しなければならない課題ではないかと思っております。とにかく日本よりも家族解体現象が急激に進んでいるのが韓国の現状なのです。


韓国の高齢者

 わたしは韓国老人問題研究所の理事長であり、私の研究所には約20人の老人問題専門家が様々な高齢者の問題に関する課題を研究しています。その中で、子供と高齢者と若夫婦との関係に関する研究論文も多く出ています。また生活調査、実態調査の結果も出ていますが、韓国の場合は1960年代、70年代までは、若い夫婦たちが老父母と同居するのを内心嫌がっていたのです。だから高齢者は若者たちが嫌がるから別居しよう、高齢者たちは若者たちと一緒に住みたいのに若者たちが嫌がるから若者たちを気楽にさせるために高齢者たちが進んで別居したのです。

 しかし、80年代、90年代に入ると、逆に高齢者たちが若者たちと一緒に住むのを嫌がるようになりました。この原因は何かというと、韓国の若者たちは共稼ぎのため、高齢者と同居すると幼い子供の育児や家事の協力を老夫婦に頼めます。若者たちは、高齢者と同居するといろいろな利益があるから父母と一緒に住みたいという現象が起きてきました。一方、高齢者たちは若者たちのための家事労働をしたくない、子供の養育の労働をしたくないという理由で若者たちとの同居を嫌がる傾向になりました。

 また、嫁姑問題も原因の一つです。今の韓国の高齢者たちは、伝統的な家族規範がそのまま存続すると信じていたのでしょう。今の高齢者たちが若かった1930年代、40年代、50年代頃は、その父母に対して若者が犠牲になりながらも老父母に対する親孝行を熱心にしたのです。また、自分が高齢者になったら、今の幼い子供たちが青年になってまた親孝行をするに決まっているという考えをもっていたので、今の韓国の高齢者たちは自分自身の老後の生計のための準備をしなかったのです。家族規範や価値観が変わっていくということを知らなかったのです。そのため老後準備の重要性をあまり分からなかったのです。高齢者の80%以上は、自分自身の老後生計の準備ができませんでした。

 それにもかかわらず、今の若者たちが親に対する扶養義務を守らないということが韓国の高齢者の生計の問題となっています。韓国の高齢者は今、自分が生んで養って教育を受けさせ結婚費用も出してきた子供たちが、裕福な生活しているのに、その子供たちを扶養した高齢者たちが相対的貧困であることが問題なのです。

 人間は物質も気持も重要で、高齢者が別居している子供たちの家に行ってみると大体30坪から40坪くらいの大きな家に住んでいるのに対し、高齢者は相対的貧困ですから20坪とか15坪くらいのところにしか住めないというような現象があります。また、生活費も子供たちの1ヶ月の生活費の3分の1くらいしか使えないのです。高齢者は子供たちに不平は言わないけれど、いつも心の中で感じるのです。「私の子供たちはずるい。生んで養って高学歴の学校に行かせ、その学費を出したために親は自分の老後のための準備ができなかった。親は子供を育てて教育させるために、若いときに稼いだお金をみんな使ってしまったから、老後の生計がこんなに貧しい。だのに子供たちは、自分が豊かな生活をしながら親には・・・」

私の場合

 私の場合の例をいいますと、私は子供が、男1人と女2人で、皆アメリカへ留学させました。私は、若いときにお金を多く稼いだのに、3人の子供を大学に行かせたり、アメリカへ留学させたりしたために、私の老後の準備は全くできなかったのです。今、私は80歳で、子供たちは全員別居しています。子供たちの生活費はアメリカのお金で1ヶ月、3,500ドルから5,000ドルくらい使いますが、老父母である私たちに毎月送ってくれる生活費は、1ヶ月に500ドルです。子供たちは自分の生活費には1ヶ月に3,500ドルから5,000ドルを使いながら、老父母に対する生活費は500ドルしか出せない、これが相対的貧困なのです。

 私の家内は、「子供たちに完全に裏切られた」といいます。私は、「子供たちにアメリカ留学などさせないで、自分たちの老後の準備をしよう」と家内にいったのです。しかし、私の家内は、「アメリカに留学させて皆が博士になれば、老後は子供たちが皆解決してくれるからお金を貯蓄して老後の準備をするよりは子供たちに投資したい」と主張したのですが、今は裏切られたといっております。

 私の家だけでなく、大部分の高齢者が裏切られたという気持を持ちながらも子供に直接不平はいえないのです。私の家内は、いつも「今度の日曜日に子供たちが来たら言ってください」といいます。「君たちを小学校にだけ行かせ、労働者にしておれば教育のための費用を使わないで貯蓄できて私たちの生活は豊かだったのに、君たちに投資をしたために老後の準備ができなかった。もしアメリカに留学させなかったら、君たちは1ヶ月に1,000ドルから2,000ドルくらいしか月給を貰えなかったはずだ。大学を卒業して博士になったから、月給が5,000ドルから6,000ドルくらいになるんじゃないか。資本主義原理に基づけば、資本を出した人と山分けするのが一般的権利じゃないか」と。

 現在、私の子供も嫁も博士で、2人の月収は、韓国のお金で850万ウォン(80万〜100万円)、3ヶ月に1度はボーナスがあります。だからそれを山分けしなければならないと言いなさいと家内は私にいうのです。次の日曜日に会えば言いたいと思っていても、子供たちと直接顔を合わせたらそういうことを言えないと思います。私の家内は、家庭裁判所に訴えると言いつつも、結局私にだけ訴えて家庭裁判所には行かないのです。7,8年前から「今月こそ家庭裁判所に訴える」といいながらも訴えないのです。

 韓国の多くの高齢者たちは、私たちの家庭のような環境にありながらも、直接子供にはそんなことは言いません。そんな気持を持ちながらも子供たちにいうのは嫌がるのです。なぜ言わないのか。言っても聞くはずがない、言うと子供たちと対立する恐れがあるからです。収入を山分けしましょうといって、それを聞く可能性があるなら言いますが、子供たちが承諾するよりも感情の対立・葛藤が起こる可能性があります。葛藤が起これば今までの苦労が水の泡となってしまうから悔しい。だから悔しくてもこのまま我慢した方がいいというのが、私の家内、また大勢の考えと思います。

高齢者の生計

今の40代、50代の若者たちは、70代、80代の高齢者たち、60代後半の高齢者たちがそのような事情で苦しんでいる様子を見て、自分たちが高齢者になっても同じ事が起こる可能性が高い。ということで老後の準備を熱心にやっています。子供たちに対する投資を減らしながら自分自身の老後準備を熱心にしているのです。韓国の高齢者たちは相対的貧困ですから、子供たちに老後の生活を頼るのは難しいので、まあ高齢後期にあたる70歳、80歳の老人は健康でなくなってきているので仕方がないのですが、60代のまだ健康な高齢者たちは働いて生計費の収入を得たいという希望をもっています。

 しかし韓国は今、若い人たちの失業率がとても高いので高齢者たちのための仕事場があまりないのです。韓国の高齢者たちは自分自身が働いて収入を得ることも難しく、生計費を子供たちに頼るというのも限界があります。また、韓国では老齢年金(公的年金)、国民年金法が1989年度に制定されたので、60年代の後半、70年代、80年代の高齢者たちは年金の受給者資格もありません。だから今の高齢者は犠牲にならざるを得ない状況です。

 もう1つは、若夫婦たちが親の生活費を出そうと思っても、家族制度が夫婦中心制になったものですから、家族問題は夫婦が、夫と妻が、同意しなければならないのです。息子が父母を扶養するためにお金を出そうと思っても妻の同意を得なければならない、妻は夫の父母を扶養する費用を出す場合は、妻の実家の父母を扶養する費用も出さなければ承諾しないのです。

 私の息子の場合、「1,500ドルくらいは父母に出しましょう」というと、嫁が「それなら私の父母のためにも1,500ドル出しましょう」といいます。となると両方の父母に出すお金が3,000ドルになります。息子夫婦も子供の教育費もありますし、生活費もありますのでそれは不可能です。

 昔の儒教的・伝統的家族制度では、親の扶養は男の父母の扶養だけに限っていたから、その父母の扶養の費用を出すことに無理がありませんでした。しかし今の若夫婦たちは、父母の扶養の費用を出すならば両方の父母に出さなければならないというのが問題です。資本主義社会では、若者の月給の水準は核家族を扶養する生活費くらいしか出ないのが一般的です。父母扶養の費用を出すならば両方の父母に出さなければならないので、それが現実的に問題になるのです。韓国も私の家庭も今、それが問題です。現在、私の家庭では子供から毎月500ドル貰っていますが、息子は嫁の父母に対してもまた500ドルを出すのです。韓国の若者にはそういう家庭が多いのです。

家族制度の移行

 また高齢者と子供たちは1つの家に同居している世帯は30%くらいですが、子供と別居はしていても、若者が高齢者の近くに住んでいるのが一般的です。

 しかし問題は、昔は次男、三男の場合、父母と別居をしても近所で住んでいたのですが、今の韓国の一般的な状況は、父母と別居をしている息子は自分の父母の近くではなく、嫁の父母の近くに住むのです。別居の場合、息子は嫁の実家近くに住むのが一般的なのです。

 私には息子1人と娘が2人いまして、その息子と嫁、娘2人にも夫がいますが、6人が私に孫を与えたのは3人だけです。今は少子化の時代ですから6人が働いて3人の子供しか産まないのです。だから将来は若者たちがどんどん減ります。高齢者は長生きして韓国も近いうち高齢社会になります。

 私は姓が朴ですので、家父長的な血縁的な家族制度では、孫は当然血縁にあたる私の朴さんの親戚と仲良くし、連絡を取り合うことが普通の状態だったのですが、今、私の孫は朴という私の親戚とは付き合いが薄く、嫁の親戚だけが自分の親戚と思っているのです。

 ですから、韓国は母系的家族制度に移りつつあるのではないかと思います。私の子供は不動産も持っていますけれども、不動産を管理するのは高齢者である嫁の父母に頼んでいます。子供の事務所の毎月の収入がいくらあるのか、私たちにはわかりません。それがわかるのは嫁の父母だけです。今の韓国は儒教的家族文化がそのまま残っているように見せかけていますが、実際は嫁の方が家族の主権を握っているという傾向が進んでいます。

 昔は男の子を産んだら祝福すべきだと思っていました。しかし、今の若い世代は皆女の子を産んだときの方が男の子を産んだときよりももっと祝福されます。女の子を好む傾向が表れるようになったのが、韓国の最近における家族制度の1つの傾向です。

相続

 また、もう1つは、財産相続の問題です。韓国の伝統的慣習では、高齢者が自分の持っている財産を子供に遺産として残す場合、長男が家系を継承するのですから高齢者が死ぬと、その残した財産の大部分が長男に継承されたのです。なぜなら長男だけが父母を扶養する責任を持っていましたし、長男だけが祖先の祭りごとをする責任を持っていたため、その対価として、遺産はその大部分を長男に残すのが韓国の伝統的慣習でした。

 1970年代、韓国で女性運動が起こり、財産相続法の改定が行なわれました。そして女性たちが提案した改定案が国会で採決されたのです。

 その財産相続の改定法では、性別や続柄を問わず、父母が残した財産を等しく分配するという法律に改定されました。それが老父母扶養の習慣を大きく変化させた原因の1つとなったのです。

 伝統的家族規範では、長男が父母の扶養の責任を持ち、また祖先の祭りに対する責任の対価として財産の相続は長男中心に行なわれました。それに対し相続法の改定後は、遺産を等しく分配するから、今度は老父母の扶養は3人の子供があれば3人が、5人の子供があれば5人が共同で扶養の責任を負うことになりました。長男だけが父母の扶養の責任を負わなくてもいい、夫婦はそのような考えをもつようになり、また次男や娘は、相続は共同分配してもらっていても言い訳をします。「韓国の伝統的制度は老父母の扶養は長男がするのが家族規範ですから、次男や娘にそんな義務はない」。財産相続は受けていてもそのような言い訳をするので、長男夫婦だけに責任を負わせることが出来ず、ジプシーのように長男のところに1週間、次男のところに1週間、また3男のところに1週間、次の1週間は結婚した娘のところに扶養してもらうという、行ったり来たりの生活をする高齢者たちも出てきました。高齢者夫婦が一緒に住んでいるときには、そのような現象はあまり起きないのですが、配偶者を失って高齢者1人家族になった場合、1人の子供に扶養してもらえず、行ったり来たりという生活不安定状態の高齢者も韓国には相当いるのです。

 大体、今の高齢者はそのような状況です。韓国の政府当局では、このような問題が深刻であることが判り、現在、高齢者問題を解決するための高齢者対策企画チームが大統領の所属で組織され、私が特別諮問委員になっています。

 他の国の方たちは、「韓国の人たちは親孝行の伝統的価値観があって、高齢者問題はあまり深刻でない」といいますが、実は日本よりもずっと深刻です。日本は早くから公的年金制度が作られ、現在は相当な人数の高齢者たちが年金を貰って子供に生計費を頼ることなく生活しています。これに対し、韓国は社会保障制度が未成熟な社会であるにもかかわらず、若者たちの高齢者扶養の意識が急激に減ってしまいました。10年後には韓国も公的年金制度が成熟して、今の40代、50代の方たちが高齢者になれば生計費等の問題は解決できるとなっていますが、今の過渡期に、公的年金の準備もまだできていないこの時期に高齢期を生きている今の60代、70代、80代の高齢者だけが犠牲にならざるを得ないというのが韓国の現状です。

韓国の老人福祉政策

 韓国では現在、シルバー産業(高齢者を消費者とする医療産業や住宅産業)が盛んです。韓国ではシルバータウンといいますが、90年代、2000年代になって急速にそのような産業が発達し始めました。老後の生活費を若い時に準備していた高齢者の比率は25%〜30%ですが、多くの高齢者たちは、お金がないので子供たちに頼らなければならないのが現状です。

 しかし、生計費を準備していた高齢者のために、韓国の施設としては政府で助成金は出さずに老人が入所費用を出す老人病院(日本の保健施設と同じような施設)が最近急速に発展し始めました。

 また、老人住宅といって、大体1世帯の広さが10坪から12坪くらいの施設で、食堂やレクリエーション設備の多い老人アパートがどんどん建設されるようになってきました。

 また、全国の地方ごとに高齢者総合センター(1つの敷地面積が1,000坪から大きいもので2,000坪くらい)が地域ごとに建てられました。現在、全国に150ヶ所近くあり、毎年10ヶ所くらい増えています。高齢者たちと家族との関係が希薄になり、孤独や孤立といった感情を持つ高齢者のため、いろいろなレクリエーションプログラムもあり、また昼食もそこで食べられ、保健施設も利用できます。

 こういった在宅老人のための施設が盛んに建てられています。国家の福祉政策は日本よりも相当遅れていますが、急速に高齢者福祉プログラムの予算が激増するのではないかと予想されています。今まで韓国の高齢者福祉の予算が少なかったのは、冷戦時代で韓国の軍事費用が国の費用として多くなっていて、福祉のための費用はあまり多くかけることが出来なかったのです。このことが、老人福祉政策が遅れてきた原因の1つでもあります。

 冷戦時代が終結し、今からは急速に高齢者福祉は進んでいくのではないかと考えられています。到底家族には頼れないということを政策決定者たちも分かっていますから、人道的見地からも老人福祉には力を入れなければならないというのが、政策決定者たちの共通の見解です。急速に何か対策を立てなければと、大統領直属で対策委員会が設けられています。そして韓国で老齢年金が98年から発足したのです。

 今はそのお金が、韓国のお金で、全体の高齢者の3分の1の貧しい人だけに、50,000ウォンしか出せないのですが、急速に金額が増加する傾向にあります。その老齢年金も支給者を増やす、また金額を増額させる政策に関心を持っていますので、5年後、10年後の高齢者は、今の老齢年金、租税負担による老齢年金で最低限の生活は可能になるのではないか、今の高齢者が犠牲になるだけで、今から5年後、10年後の韓国の高齢者たちは、租税負担によって生計費が出るのではないかと見られています。
また、今の韓国は医療保険制度があります。その医療保険制度は国民全体のための医療保険制度ですが、高齢者のための特別の保険法が国会で審議中です。その法律が今年中、または来年中には制定されることが確実になってきています。それが制定されると介護の問題や高齢者の医療の問題は国の費用、税金で負担するような政策になります。

高齢者の人的資源活用

 もう1つ、ヨーロッパ諸国では、50年代、60年代から2000年までずっと国や地方自治団体が高齢者問題を解決しようとしてきました。最近の傾向は、国や地方自治団体が老人福祉をするためには若者たちからもっと税金を多く貰わないといけないという問題があります。

 スカンジナビア3国の場合、高齢者社会に対応するために、また高齢者に対し国が保障するための経費として、若者たちの収入の約50%が税金として徴収されます。若者たちは国があまりに高い税金を取るので、その対策として、高齢者問題を解決するために、家族としての人的資源をどういう風に生かすべきかという研究を盛んに行なっています。

 昨年スカンジナビア3国に行った際、施設に入っている高齢者を村ごとに分け、前期高齢者の人的資源をもって後期高齢者の介護やいろいろな問題を解決する、そして公的資金を節約する、そうすることで若者たちの税金の負担を少しずつ減らしていこうという政策が盛んに行なわれていました。
日本ではまだ、そういう政策には関心がないと思っておりますが、日本も世界で最大の高齢化現象が起こっていますので、高齢者を扶養するためには若者たちの税金の負担が増え、5年後、10年後には若者たちの税金の負担が益々増えていくのが日本の現状だと思っております。
5年後、10年後には、日本も前期高齢者たちの人的資源を活用して高齢後期の高齢者の問題を解決する。そのような政策に転換しなければならないのではないかということ、それは韓国でも同じ事です。

 以前に韓国の盧泰愚大統領と夕食を共にした際、私は大統領に政策を建議しました。「60歳の働き盛りの高齢者が韓国には多いですが、仕事を見つけようと思っても仕事をする場がほとんどありません。高齢者たちの介護だとかそういう問題を解決するためには前期高齢者、働き盛りの高齢者を活用してください」と。「ヨーロッパ諸国ではそういう傾向にあり、とても効果的ですから」そういうことを頼んだこともありました。それは日本にとっても同じ課題の1つではないかと考えております。

プロフィール


朴 在侃 (パク ジェガン)

韓国老人問題研究所 理事長 兼 所長

学歴 及び 主要経歴
1948年 韓国ソウル大学校 商科大学 経済学科卒業
1973年 社団法人 韓国老人問題研究所 理事長 兼 所長(現在)
1978年 韓国老年学会 会長(現在 顧問)
1978年 第11回国際老年学会総会(東京)韓国代表参加
1981年 国連主催 老人に関する国際会議(ウィーン) 韓国代表参加
1985年 国連WHO主催 老人関連国際会議(ニューヨーク) 韓国代表参加
1988年 第14回国際老年学会総会(メキシコ) 韓国代表参加
1993年 第15回国際老年学会総会(ブダペスト) 韓国代表参加
1995年 東北亜老人福祉大会(北京)韓国代表参加 主題発表
1996年 東北亜老人福祉大会(東京)韓国代表参加 主題発表
1996年 早稲田大学老人福祉セミナー(東京)参加 主題発表
1998年 国連/ESCAP主催 世界老人の年 準備会議(北京)参加
2002年 韓国老人文化交流協議会 会長(現在)

研究論文
1977年 「高齢者人材活用法に関する研究」
1980年 「老人権益保護運動が国家社会に及ぼす影響」
1998年 「各国の老人扶養義務関連法の現況と課題」
2001年 「高齢者就業政策開発に関する研究」
その他 老人政策に関する研究など多数

単行本
1978年 老人問題の現況と課題
2002年 高齢者就業とボランティア活動
その他 高齢者問題関連多数